銀行が粉飾決算を見抜く方法と会社がとるべき対策

この記事の著者

工藤聡生 
銀行、国際会計事務所勤務を経て開業。資金調達、事業計画による業績向上を支援している。早稲田大学政治経済学部卒、公認会計士・税理士。

決算が赤字になると経営者は、銀行がお金を貸してくれなくなるのではないかと不安を感じます。
不安を感じるのも、仕方がありません。
在庫や売掛から生じる資金負担を自己資金で手当てできる会社は、ほとんどありません。
運転資金は、実は、長期的かつ固定的に必要な資金なのです。
しかし、多くの中小企業は、短期融資で運転資金を調達しています。
運よく、長期資金で手当てすることに成功している会社も、返済した部分について折り返し融資をしてもらわなければ、運転資金が枯渇してしまいます。
赤字になると、ほとんどの経営者が、決算書をお化粧して、なんとか表面上は、黒字にしたいという誘惑に駆られます。
いわゆる粉飾です。

しかし、銀行は粉飾決算を見抜く分析をしています。
粉飾をみぬかれたら、新規融資は、止められます。
多くの中小企業にとって新規融資が受けられないことは、運転資金の枯渇を意味します。

銀行がどうやって粉飾を見抜くのかについてご説明します。
粉飾で一番よくとられる方法が架空売上です。
仮に100万円の赤字の会社があるとします。
この会社が架空売上を200万円だけ計上すれば100万円の黒字となります。
ただ、架空売上なので、売掛金は回収されませんので、売掛金残高が100万円大きくなってしまいます。
架空売上による粉飾は、現金の回収がないので、売掛金残高が架空売上の金額だけ大きくなってしまうのです。
銀行は、売掛金の残高が不自然に大きくないかどうかを、売掛金の回転期間を分析して検証しています。
回転期間とは、売掛金と受取手形の合計を平均月次売上で割って、得られた数値です。
売上が回収されるまでの期間を意味します。
売掛金が100、年間売上が1,200であれば、月次の平均売上は100なので回転期間は1ヶ月です。
売上の回収に1ヶ月がかかるということです。
銀行は、売掛金の回転期間が適正な値かどうかを、つぎの三つの方法で検証しています。

  • 回収条件からの検証
  • 業界平均との比較
  • 時系列分析

例えば、お客からの売掛金の回収条件が平均して1ヶ月後の会社は、売掛金の回転期間は、1ヶ月となります。
しかし、粉飾をしていると売掛金の回転期間は、回収条件から推定される値よりも大きくなってしまいます。
粉飾された売上は、回収されようがないので、売掛金残高を不自然に膨らませてしまうのです。
銀行に決済条件を知られてしまうと容易に粉飾決算を見抜かれてしまいます。

銀行は、業界平均とも比較してきます。
会社が粉飾をして、しかも回収条件についてうまく嘘をついても、銀行は、その業界の売掛金の平均的な回転期間と比較をしてきます。
1ヵ月後に売掛金が回収されるのが通例の業界では、その会社の売掛金の回転期間も、1ヶ月となるはずです。
しかし、粉飾をしていると業界平均よりも売掛金の回転期間は大きくなってしまいます。
売掛金の回転期間を業界平均値と比較されることによって粉飾が見抜かれてしまうのです。

仮に回収条件をひたかくし、業界平均のデータがとりづらい業界であったとしても、時系列分析によって最終的には粉飾は見抜かれます。
粉飾は麻薬のようなものです。
一度、はじめるとなかなかやめられません。
厳しい経営改善をしなくとも、帳簿をいじくるだけで資金調達ができるのですから、一度はまったら抜けられません。
しかし、架空売上は、回収されることはないのでどんどんと売掛金は膨らみ続けます。
回転期間は、どんどんと大きくなっていってしまいます。
1ヶ月の回転期間が、翌年には、1.5ヶ月になり、その次の年には、2ヶ月になっていきます。
売掛金の回転期間は、固定的であるはずです。売上が伸びても回収条件が悪化しないかぎりは、回転期間は、どの事業年度も不変です。
時系列的にみて、回転期間が増加し続けるのは不自然なことなのです。
粉飾をしている会社では、この不自然な増加がおこり、銀行に粉飾を見抜かれてしまいます。

粉飾が見抜かれたら、銀行は、新規融資には応じてくれません。
悪質な場合には、借入金の一括返済を求められます。
中には、損害賠償を請求されたケースもあります。
安易な方法に頼りすぎると、最終的には墓穴をほってしまうことになるのです。

これらの銀行の発見システムは、万全ではありません。
2、3年ならばれないようにぎりぎりの決算をすることは難しくありません。
場合によっては、こういった苦渋の選択をせざるをえない場合もあるとは思います。
ただ、粉飾を積み重ねていけば、どんなに巧みな技術をつかってもいつかは発見されてしまうことは歴史が証明しています。
粉飾に頼らずに、むしろ経営管理をきちっとして、赤字にならない経営を優先させるべきでしょう。

粉飾決算から抜け出す方法

粉飾は、会社をどんどんとむしばんでいき、いつかは、会社は、袋小路に追い詰められます。
銀行に正直に相談しても助けてはくれません。
そんなことをしても、金融支援を打ち切られてしまうだけです。
粉飾から抜け出すには、経営計画に基づいて、計画的、かつ会計的に自然な処理を実行する必要があります。
経営計画に基づいて段階的な決算対策を実施すれば、会社を強くするだけでなく、節税も図れます。

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