工藤聡生
銀行、国際会計事務所勤務を経て開業。資金調達、事業計画による業績向上を支援している。早稲田大学政経出身、公認会計士・税理士。
銀行はいかに会社を評価するか~銀行格付けとは~
現在の銀行の企業の評価の仕方は、わかりづらいものとなっています。以前の、金融検査マニュアルに基づく評価の方がわかりやすかったという意見を少なからず耳にします。
一方、銀行が企業を評価する方法は、金融検査マニュアルに基いて、企業を格付けし、その評価に基づいて融資の可否を決定する方式から、本質的なところは、変わっていないのです。
ですので、銀行融資を引き出すためには、以下に記述している金融検査マニュアルの基づく格付けを理解しておくことは、無駄にはなりません。
むしろ、銀行の融資実務を理解する近道といえるでしょう。
なぜ、銀行は、決算書中心に格付けをするのか?
銀行からお金を借りることができなければほとんどの会社はやってゆけません。
一方で、銀行は、企業を評価(格付け)して、その格付けによって、お金を貸すか貸さないか、金利をどのレベルに設定するかを決めています。
格付けによって、企業に対する融資姿勢はきまります。
格付けが悪くなると、金利を上げられたり、お金を貸してもらえなくなります。
ですから、会社は、銀行からよい格付けをもらわなければ、資金調達はできません。
それでは、この銀行格付けはどのように決められているのでしょうか?
銀行格付けは、決算書でほぼ70~90%決まります。
銀行は、どうやって格付けするの?
銀行がどうやって格付けをしているのかを知らなければ、対処のしようがありません。
銀行格付けのプロセスについて理解しましょう。
銀行は、まず融資先を10~12段階に分けて信用格付けします。
この信用格付けに基づき、債務者区分が決定されます。
債務者区分は、6つに分かれています。
正常先、要注意先、要管理先、破綻懸念先、実質破綻先、破綻先です。
格付けと債務者区分は直結しています。
たとえば、格付けが1~6なら正常先、7-1なら要注意先、7-2なら要管理先、8なら破綻懸念先、9なら実質破綻先、10なら破綻先というふうに対応関係にあります。
下の区分にいくほど、貸倒のリスクが高まるので貸倒引当率が高くなります。
貸倒引当率は、正常先で0.1~0.3%、注意先では1~数%ぐらい、要管理先になると約15パーセントに跳ね上がります。
要管理先に格付けされるとお金をかすと金利をはるかに上回る貸倒引当金を計上しなければならないので、銀行はお金を貸したとたんに損をしてしまいます。
ですから、要管理先に区分されてしまうと、新規融資はしてもらえなくなります。
すくなくとも要注意先以上の区分に入らないと、融資は受けられません。
信用格付けは、3つのステップを経て決定されます。
第一次評価(定量評価) 決算書の数値に基づく格付け評価です。
第二次評価(定性評価) 決算書上に数値化できない要素を拾い上げます。
第三次評価(実態評価) 決算書の裏に隠れた返済能力を反映させます。
以下、それぞれのステップについて説明します。
第一次評価 定量評価
第一次評価は、決算書の数値を使って行われます。
決算書の数値は、そのまま格付けソフトに入力されます。
格付けソフトは、財務スコアリングモデルといわれる評価基準に基づいて債務者を自動評価します。
この自動評価により、企業の格付けは、70~90%決定されます。
下記の第二次評価、第三次評価がどんなによくても、10の格付け段階のうち、1~2ぐらいしか評価を上げてもらえません。
それくらい決算書による評価は大きなウェイトを占めています。
評価基準の基礎となる財務スコアリングモデルは、銀行によって多少はことなりますが、大筋は同じです。
財務スコアリングモデルの細かいロジックは、通常は、現場の銀行マンには知らされていません。貸出先に伝わり、裏をかかれるのを防止するためです。
財務スコアリングモデルにおいては、安全性・収益性・成長性・債務返済能力の4つの指標をもとに、総合的に会社を評価します。
主に使われている指標について、下記で説明をしております。
決算対策を組むときには、これらの指標がよくなるようにしなければなりません。
それぞれの指標への配点は、大差はありません。
よく、黒字にすれば銀行は貸してくれるという方がいいますが、それは誤りです。
『黒字』とは収益性の指標ですが、格付けでは、収益性だけでなく、安全性、成長性、債務返済能力も評価されます。
すべての指標でバランスよく、得点を稼がなければなりません。
なお、当事務所は、某銀行の財務スコアリングモデルを再現したソフトをもっていますので、正確に点数を算定することができます。
安全性
- 流動比率 流動資産÷流動負債
- 自己資本比率 株主資本÷総資本
- ギアリング比率 有利子負債÷自己資本
収益性
- 売上高経常利益率 経常利益÷売上高
- 総資本経常利益率 経常利益÷総資本
- 当期利益額
成長性
- 経常利益増加率 当期経常利益÷前期経常利益
- 売上高
債務返済能力
- 債務償還年数 (有利子負債-運転資金)÷キャッシュフロー
- キャッシュフロー額 営業利益+減価償却費
- インタレストカバレッジレシオ (営業利益+受取利息・配当)÷支払利息割引料
第二次評価 定性評価
第二次評価では、決算書上数値で評価しづらい要素について評価します。
評価される要素は、具体的には以下のとおりです。
- 経営者の能力
- 市場の将来性・成長性
- 過去の返済履歴
- 経営計画策定能力、財務管理能力
- 販売力
- 技術力
- マスコミ記事
- 業歴
わたくしどもの経験では、市場の成長性、経営計画力、販売力のウェートが高めに設定されています。
ただし、第二次評価で格付けが大幅に変更されることは稀なことです。
第三次評価 実態評価
第三次評価では、返済潜在力を評価します。
第一次評価や第二次評価の評価対象には該当しない事項で、融資先の融資返済力を左右する事項を評価します。
具体的には、次のような項目です。
- 不渡り手形、回収不能売掛金、換金不能な不良在庫、貸付金の回収不能分は資産から控除します。
- 土地や有価証券の含み損があれば控除します。逆に土地に含み益があれば、プラスに評価します。
- オーナー、支援者、関連企業に資産余力があれば、プラスに評価します。
第三次評価で格付けが大幅に変更されることもやはり稀です。
意外ですが、そもそも多くの銀行マンは積極的に会社の実態を観察して格付けに反映させようとはしていません。
会社は、5つの債務者区分のどれかに分類される
格付けが終わると、それをベースに、会社は、5つの債務者区分へ分類されます。
債務者は、正常先、要注意先、要管理先、破綻懸念先、実質破綻先、破綻先の六段階のいずれかに分類されます。
どの区分に分類されるかによって、新規融資を受けられるかどうかが決まります。
正常先より下に分類されてしまうと、融資を新規にうけるのはかなり難しくなります。
正常先・・・・業況が良好であり、かつ、財務内容にも特段の問題がないと認められる債務者。
決算書上は、
- 当期利益が黒字、
- 純資産の部にマイナス表示(累積損失)がない、
という条件を基本的には満たしている融資先です。
ただし、赤字であっても、創業赤字の場合、一過性の赤字の場合、会社に十分な余剰資金があるか、経営者に十分な資産があり、債務の返済能力に問題がない場合には、正常先とみなされる場合があります。
正常先は、前述した四つの指標(安全性、収益性、成長性、融資返済能力)によってさらにいくつかの格付けに区分されています。10段階ぐらいに信用格付けを決定してから、最終的に債務者区分が決まると説明しましたが、10段階評価なら上から6番目ぐらいまでの信用格付けを得た会社は、この正常先に分類されます。同じ正常先でも、上の格付けを与えられた会社のほうが、より有利な融資条件を引き出せます。
要注意先・・・・業績不調で財務内容に問題があったり、延滞があったりする債務者です。前述の10段階の格付け評価では、7-1に相当します。貸倒引当率は1~数%ぐらいです。
決算上は、
- 当期利益が赤字、
- 融資の返済が一ヶ月以上延滞、
- 純資本の部にマイナス表示(累積損失)がある
- 債務超過
という条件の内一つでも満たす融資先は、該当する恐れがあります。
要管理先・・・・要注意先のなかでも、延滞が3ヶ月以上となっていたり、貸出条件の緩和が行われたりした債務者です。前述の10段階の格付け評価では、7-1に相当します。貸倒引当率は、とても高くなり、十五パーセントぐらいになります。
破綻懸念先・・・・現状、経営破綻の状況にはないが、経営難の状況にあり、経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者。実質的に債務超過の会社です。 破綻懸念先に格付けされますと、まず、新規の融資は受けられません。それどころか、既存融資の早期回収や既存融資金利の上昇なども求められます。前述の10段階の格付け評価では、8に相当します。貸倒率は、70パーセントぐらいになります。
決算書上は、
- 二期連続債務超過かつ融資の返済が三ヶ月以上延滞、
- 融資の返済が六ヶ月以上延滞
という条件の内一つでも満たす融資先は該当する恐れがあります。
実質破綻先・・・・法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状況にあり、再建の見通しがない状況にあると認められるなど実質的に経営破綻に陥っている債務者。前述の10段階の格付け評価では、9に相当します。
破綻先・・法的・形式的な経営破綻の事実が生じている債務者をいい、例えば、倒産・清算・会社整理・会社更生・和議・手形交換所の取引停止処分等の事由により経営破綻に陥っている債務者。前述の10段階の格付け評価では、10に相当します。
決算書で全てが決まる
信用格付けや債務者区分の方法については、どの銀行でも基本的な考え方ややり方はほとんど変わりません。
銀行の格付けにおいては、決算書に基づく第一次評価が重視されており、第二次評価・第三次評価で格付けを大幅に改善するのはかなり難しいことです。
しかし、多くの中小会社は、正常先と要注意先の境界線上にあります。
わずかな差で、正常先になったり、要注意先に落ちたりします。
人為的に努力することによって、要注意先から正常先へ評価を上げることは十分に可能です。
正常先として格付けされなければ資金調達はしづらくなります。
要注意先でも新規融資をしてもらえることはありますが、正常先の評価をもらっていたほうがはるかに銀行折衝は、楽です。
対策としては、以下の方法があります。
- 銀行借入をしやすい決算書を作る。決算日の6ヶ月以上前からシミュレーションを実施して、決算対策を事前に打つ。
- 経営計画を添付する。経営戦略と将来の業績を明示して銀行の定性評価を改善する。
- 業績の経緯について説明書を決算書に添付する。特に赤字の場合には、必須です。
- 数字に現れない自社の長所をアピールする資料を決算書に添付する。
- 四半期ごとに報告で営業キャッシュフローがプラスであることを理解してもらう。
- デッドエクィティスワップにより、社長借入金を資本金へ振り替える。
正常先とみなされなければやってゆけない?
銀行格付けの評価・査定は部外秘ですので、自社がどの格付けに該当するのかご存知ない経営者も多くいらっしゃると思います。
正常先に該当していると、融資を通常の取引条件で借り入れできます。
同じ正常先でも、信用格付けが高いほうが金利は低くしてもらえますし、貸してもらえる金額も大きくなります。
当期利益が赤字となると要注意先とみなされる可能性があります。
正常先の下の格付けと、要注意先とでは、金利が2%以上異なります。
また、要注意先として分類されると銀行から新たにお金を引っ張るのはちょっと難しくなります。 それどころか、ころがし貸付の返済を求められることもあります。
コロガシ貸付とは、返済期日に返済額と同額の貸付を受けている、実質的な長期貸付です。
コロガシ貸付の返済は、会社からみれば、実質的には貸しはがしです。
資金調達を円滑に実行するためには、正常先の格付けを確保しなければなりません。
もし決算書がぼろぼろなら経営計画書が必要です
一方では、銀行は、決算書だけにたよった機械的な格付けだけにたよらず、定性評価を重視するように金融庁から求められています。
定性評価とは、簡単にいうと、銀行は、数字だけで割り切った定量評価をせずに、企業の実態をよく見て、融資や本業支援を行いなさいということです。
具体的には、決算書や担保・保証だけに頼らずに、企業のビジョンを理解し、SWOT分析を実施して、企業の経営実態を深く理解することにより、融資可能性を判断するということです。
ですので、決算書がぼろぼろで担保もなく、定量評価が低くとも、会社に将来性があれば、投資資金を貸し付けてもらえる可能性は前よりも高くなりました。
金融庁は、銀行にとっては絶対的な存在なので、この金融庁の姿勢は、銀行の融資姿勢に対して大きな影響を与えています。
銀行による定性評価を高めるためには、知ってもらう努力が大切です。
待ちの姿勢ではだめです。
こちらから経営計画を差し出して、会社の将来性、成長力をこちら側が証明する努力をしないと、高く評価はしてくれません。
ただ、銀行もばかではありませんので、いい加減な経営計画をつくっても、評価はしてくれません。
リアルな経営計画を作り提出することが大切です。
過去の経営実績を冷静に分析し、企業をとりまく外部環境の機会と脅威と、経営の強みと弱みを客観的に見つめる必要があります。
この分析に基づき、明確なビジョンを打ち立て、そのビジョンを達成するために、無駄をそぎ落とし、強みに経営資源を集中する、『肉を切らせて骨をたつ』式の、真摯なシナリオをつくれば、理解は得やすいでしょう。
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