税務調査の方法と対策

この記事の著者

工藤聡生 
銀行、国際会計事務所勤務を経て開業。資金調達、事業計画による業績向上を支援している。早稲田大学政治経済学部卒、公認会計士・税理士。

税務調査の頻度

税務調査は、平均すると数年に1度をめどに実施されます。
ただ、個々の頻度は、まちまちです。
10年以上、税務調査が来ていない会社も少なくありません。
税務署が収集している情報で、問題がなければめったにきません。
逆に頻度が多い会社もあります。
決算書によほどの異常点があったり、税務署がなんらかの情報を把握していたりする場合には、調査後2年しか経過していないのに調査を受けることもあります。

調査の事前通知と、日程の調整

  • 通常は、税理士を通じて税務調査は予告されます。税務署には、質問調査権が法律で与えられているので、税務調査は、拒否することはできませんし、またそんなことをすると何かを隠していると思われるので得策ではありません。ただ、日程や場所については、こちらの要望を聞いてくれます。都合が悪ければ極力、日程をうしろの方にずらしてもらいましょう。
  • 税理士と契約していれば、税理士が社長と税務署の間に入って、日程調整をしてくれます。
  • まれに税務調査は、税務署長の承認に基づいて無予告でくる場合もあります。これは、現金商売等の会社で現金実査等を行って現金売上の実態を把握するためです。正当な理由がない限りは、無予告で調査することはできませんので、その理由を必ず聞いてください。理由を開示する義務はないのでまず教えてくれませんが、現金商売だという理由だけで、無予告調査が実施されたとしたら、違法調査とされ、調査打ち切りとなる可能性もありますので、税務調査期間を通じて、無予告調査の正当性について何度も問い正す必要があります。

現場調査の方法

  • 通常は、1~2人の調査官が2日をかけて調査します。それ以上の人的資源が投入された場合、すなわち、3人以上または3日以上の調査が行われたときには大きな問題を捕捉されていると考えたほうがよいでしょう。
  • 税務調査は、10時に始まり、だいだい午後4時には終了します。会社の業務に支障をきたさないためです。昼休みは、12時から午後1時までです。税務調査官は茶菓子などには手をつけることがありますが、食事等の供応には一切応じません。
  • 初日の午前中は、『雑談』ぽい会話となりますが、実は、目的があります。業界の特性、ビジネスの特徴、金の流れについて把握することです。調査官は、ここで大まかな金の流れをつかみ、税金逃れが行われているとしたらどの辺がポイントとなるのかを推量します。
  • 経営者や家族の生活ぶりについても『雑談』形式で、しばしば訊いて来ます。家族の話となると経営者も気が緩み、いろいろと話をされる方が多いのですが、ここからも、税務調査官は多くの調査ポイントを導き出します。たとえば、役員と家族の生活ぶりが、決算書から判断される経営者の給与をはるかに超えているようであると、隠れたお金がどこかにあるのではないかと推測します。社長の個人的な履歴についてもよく質問をします。社長の履歴から企業の属性がつかめますし、不正をやりそうかどうかも推測できることがあるからです。
  • 税務調査官は、とても厳しい競争にさらされています。増差額、すなわち、追加で取れる税金がすくなければ、昇給も差をつけられますし、昇進も遅れます。高い評価を得られず、統括官(チームリーダー。課長レベル)や特別調査官になれずに定年退職される方もかなりいます。これは、彼らにとってとても辛いことです。税務調査官がいい加減な気持ちで雑談にふけることはありません。
  • 会社の概況説明は、経営者でなければ対応できませんので、経営者は、すくなくとも初日の1~2時間ぐらいは時間を確保する必要があります。一方、話が長引くと、そこからいろいろとあらが見つかってしまうので、必要最小限にとどめる必要があります。
  • 初日の午後からは、帳簿と確証を閲覧し、具体的な調査に入っていきます。あらかじめ実施した決算書分析や、午前中のインタビュー、前回調査の調書等を参考にして、重点調査方針を決め、そこを集中的に調査してゆきます。
  • なお、調査官には身分証明書を提示する義務がありますので、ニセ税務署員にひっかからないためにも、必ず、官職名と氏名は確認しましょう。

税務署との折衝

  • 通常は、2日目の夕方に問題点をおさらいして引き上げてゆきます。その後は、税理士が会社と税務署の間に入って、最終処理の方向についてやりとりをしてゆきます。平均して1ヶ月程度で調査は、終了します。3カ月を超えると特別の承認が必要となるので、調査官はこの期間以内に調査を終了しようとします。
  • 調査のときに十分な結果を得られなかったときには、取引先に反面調査が行われることがあります。反面調査が行われると取引先に大きな迷惑がかかり、会社の信頼が傷つき、売上に悪影響がでることも少なくありません。ですから、反面調査にはならないように、十分な証拠をそろえて、税務調査を乗り切るようにするべきでしょう。調査官が反面調査をすると言い出したときは、『事業に支障をきたす恐れがあるので、どんな資料を提供すれば、反面調査をとりやめてもらえるのか』と問いかけて、なるべく、反面調査を回避するように努力してください。場合によっては回避できることがあるので、あきらめずに交渉してください。
  • 税務署の主張には、理論的に抗弁ができる場合が少なくありません。後述しますが、調査官は激しい内部競争にさらされており、税金の追徴をしっかりしないと税務署のなかでつらい立場におかれてしまうことがあります。そのため、無理な税法解釈をしてくることがあります。また、税法には、実は曖昧な分野がとても多いのです。この曖昧な分野では、解釈はいくつにもわかれます。こういった曖昧な領域で、担当官が無理筋な解釈論に基づいて修正申告を求めてくることもあります。修正申告は、自白と同じで、一度やってしまったら、ほぼ取り消すことはできません。税理士のなかには、税務署の側にたって、すぐ修正申告を出したがるかたもいますが、それでは、納税者の基本的権利は守れません。理論的な反論がないと税務署の主張がそのまま反映され、税法の本来の趣旨そのものを越えて税金をとられてしまうこともあります。重要な論点について、事前に抗弁を用意しておくべきです。
  • 税務調査は、調査是認かあるいは納税者側が税務署と合意して自ら修正申告を提出することによって終了する場合がほとんどです。稀に税務署と税理士・納税者の見解が一致せずに、税務署長が更正という処分を一方的に下して終了する場合もあります。ただ、調査官は、更正処分を避けたがる傾向があります。行政処分の一種であるため、内部的な手続きが煩雑な上に、納税者に不服申立てをされる恐れがあるからです。納税者に裁判を起こされることもあります。ですので、こちらの主張の正当性を全く受け入れてもらえないなら、修正申告はできないと、論理的に主張を展開するのはとても有効な対策です。

強制調査

強制調査権に基づく査察調査が実施されることがあります。強制処分の一種です。普通の納税者が経験する税務調査は、質問検査権に基づく任意調査です。これに対して悪質な税金逃れに対しては、強制調査権に基づく査察調査が実施されることがあります。裁判所から令状をとり、臨検、捜索、差押といった権限が与えられるので、金庫のなかも勝手に調べたりします。査察調査を受け、重大な税金逃れが発見された場合、刑事告発される場合があります。

税務調査の結果に不満があるとき

税務調査の結果に不満がある場合には、納税者は、不服申立てをすることができます。ただ、不服申立てやその後の税務訴訟へ発展するケースはまれです。また、不服審査や訴訟という手段に訴えても、日本では、納税者側が勝利する率は、とても低く10%ぐらいしかありません。税務調査の現場で税金を追徴されれば、その後の不服審査で挽回できる可能性はとても低いということです。

税務署の組織

所轄が国税局と税務署に分かれており、大きな会社は、国税局が調査します。資本金1億円以上が、国税局と所轄税務署の分かれ目です。さらに国税局には、通常の調査を行う調査部と、強制調査を行う査察部や、無予告調査を主とする資料調査部があります。

普通の中小企業は、税務署の法人税課税部門により調査されます。法人税課税部門は、さらにいくつかの部門にわかれおり、各部門には管理者として統括国税調査官がおかれています。統括国税調査官の下には、上席国税調査官、国税調査官、事務官からなる数人のスタッフが配属されています。統括調査官の指示にしたがって各調査官は、税務調査を実施します。統括調査官自らが調査に赴くこともあります。

税務署に採用されると最初は事務官となります。順調に出世すると、大体20代後半で調査官に、30代半ばで上席調査官に、40代で統括調査官に昇進します。統括調査官の上は、副所長か特別国税調査官です。

税務署での競争は厳しく、能力が高い方でも評価に恵まれず、上席調査官のままで定年を向かえる人もいます。これはとてもつらいことです。税務署職員も人の子です。取り残されるのは、誰にとってもいやなことです。ですから、かれらは、現場では必死でかつ真剣なのです。

特別国税調査官とは、統括国税調査官が率いるチームとは異なる別働隊です。大型の案件や複雑な事案に取り組むことを目的とした調査官で、統括調査官経験者も多く含まれます。ただ、実際上は、特別国税調査官はピンきりです。経験を生かして鋭い指摘をしてくる調査官が数多くいる一方で、定年が近くそれ以上の昇進も望めないのでモチベーションの低い人も中にはいます。

税務署の調査官もやはり人です。人により調査の質は異なります。調査に来た調査官が順調に昇進している人なのか否かにより、調査のレベルが異なる場合があります。温厚そうな調査官でも順調に出世している調査官であれば、鋭い指摘をしてくる可能性は高くなります。

税務調査への有効な対策

税務調査に対して十分な準備をしておくかどうかでとられる税金の額には、雲泥の差が出てしまうことがあります。 税法にはあいまいな部分がたくさんあります。解釈の仕方がわかれる論点が無数にあるのです。税務調査官の強引な解釈論の言いなりになって、理論的な反論をしなければ、そのまま修正申告を求められて税金を余計に取られてしまうことが少なくありません。 ですから、事前に税務調査官が突いてくるだろう論点をピックアップし、税務理論的に整合性のある反論を用意しておくことがとても大切です。

多くの税理士事務所は、容易に税務署の意見に同調し、税務署との理論的対決を避ける傾向にあります。 しかし、それでは納税者は納税義務以上の税金を払うことになってしまいます。当税理士事務所では、事前に論点表を作成して積極的に理論的な抗弁を行っております。必要に応じて外部の専門家も使っています。いままでこの論点表で準備した解釈理論が完全に打ち破られたことはほとんどありません。

調査から逃げまどい、求められた資料を提出せず、あいまいな回答に終始して、なんとか追徴課税を逃れようとする方もいますが、逃げ回っても最終的には補足されてしまいます。垂れ込みも意外と多く、税務署には予想以上の情報収集能力があるからです。正面から堂々と議論することが税務調査対策のポイントなのです。

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