工藤聡生
銀行、国際会計事務所勤務を経て開業。資金調達、事業計画による業績向上を支援している。早稲田大学政経出身、公認会計士・税理士。
東京都の創業融資と23区の創業融資の比較 どちらを選ぶべきか
創業融資制度には、2種類あります。
日本政策金融公庫が提供している創業者向けの融資制度と、自治体と保証協会が協力して提供している制度融資です。
日本政策金融公庫とは、創業支援や中小企業の事業支援を重点的に行っている政府全額出資の金融機関です。
制度融資とは、信用保証協会が創業者のために保証人になってくれるうえに、自治体があっせんや、金利・保証料の補助をしてくれる創業融資制度です。
融資制度としては、無保証融資があるので日本政策金融公庫の創業融資の方がお勧めですが、融資審査は、断られるリスクがあるので、保険として、制度融資も同時に申し込まれることを助言することもあります。
2種類の制度融資
さらに、制度融資にも二つの種類があります。
東京を例にとれば、東京都が提供している制度融資と、市区町村が提供している制度融資があります。
日本政策金融公庫と制度融資との比較は、別の記事で説明しますので、ここでは、制度融資の二つについて比較検討いたします。
渋谷区で創業する場合を例にとって両者の概要を比較してみましょう。
【制度融資の比較】
項目 | 東京都の創業融資 | 渋谷区の創業融資 |
---|---|---|
融資金額 |
対象者の分類に応じて ①創業前なら『自己資金+2,000万円』 ②創業後5年未満なら3,500万円 ③分社化 3,500万円 |
1,250万円。 ただし、建設業・運輸業を除いて、営業車両は、400万円まで。 |
対象 |
次のいずれかに該当するもの ①事業を営んでいない個人で、創業しようとするもの ②事業を営んでいない個人で、自己資金があり、創業しようとするもの ③創業(設立)した日から5年未満の中小企業者及び組合 ④創業した日から5年未満であり、次のいずれかから出資を受けている中小企業者であること。 ⑤分社化をしようとする法人 |
次の全てに該当する個別企業(法人・個人) ・事業を営んでいない個人で、「事業に必要な知識・経験」もしくは「法律に基づく資格」を有し、自己資金および具体的な事業計画があり、個人または法人で区内に創業予定もしくは創業後1年未満である。 ・建設業・製造業・運輸業などは、従業員が20人以下である ・卸売業・小売業・サービス業は従業員が5人以下である ・本件融資を含めた全国の保証協会の保証付融資残高が1,250万円以下である |
資金使途 |
運転・設備 |
運転・設備 |
利率 |
固定金利と変動金利から選択する。 そのときどきの金利状況に応じて決定される。 期間ごとに金利は、設定され、期間が延びるほど高くなる。 |
本人0.4%。区が1.5%を負担。 |
保証料 |
保証協会の定めるところによります。信用保証料の補助制度あり。 |
保証協会の定めるところによりますが、代表者が区内在住の場合、またはファッション・デザイン、ITなどの分野での創業の場合には、区が信用保証料を30万円まで補助 |
貸付期間 |
運転資金7年以内、設備資金10年以内(据置1年を含む) |
7年以内(据置1年を含む) |
経営相談員への相談 |
不要 |
必要 |
総合的な判定 |
経営相談員への相談が不要なので比較的、迅速に資金調達が可能。それでも、信用金庫等の審査と、信用保証協会の審査が2重にあるので、日本政策金融公庫に比べると0.5~1ヶ月は、余計に時間がかかります。審査期間は、1~2ヶ月。 |
金利、保証料を区が負担してくれるが、借入上限額が小さい。また、経営相談員への相談が必要であるために、調達に時間がかかり、創業時期が遅れる。審査期間は、2~3ヶ月。 |
それぞれの制度のメリットとデメリット
融資金額の上限は東京都のほうが上回っていますが、金利や保証料の補助が厚い点では、渋谷区の制度にメリットがあります。
経営相談員への相談を要件としないということは、東京の創業融資の大きなメリットです。
『相談』と記述されていますが、実質的には指導です。経営相談員がハンコを押してくれないとあっせんを受けられません。
市町村区の創業融資制度の場合には、経営相談員の指導を受けてからでないと利用できないのです。
経営相談員の指導だけでも、1~2ヶ月はかかり、その間だけ創業が遅れます。
創業時期が遅れるデメリット
仮に500万円を借りて、金利と保証料を込みで2%の補助をうけたとしましょう。
その場合の経済的利益は、年間10万円です。
しかし、創業者の場合には、サラリーマンとちがって、得られる収入は、与えられているわけではありません。
創業というアクションをとらなければ1円もお金は、入ってきません。一ケ月、創業が遅れれば、それだけ稼ぎが小さくなるわけですから、機会を損失してしまうのです。
収入がきまっていて10万円だけ得をするならよいのですが、10万円のために創業がおくれたら、その間、得られる収入が0になってしまうのです。これでは大損をします。いかなる業種でも、創業をしていたら、一か月分の売上が、10万円を下回ることはないでしょう。
創業時期が決まっており、固定費が発生している会社の場合には、もっと深刻です。
創業企業とはいえ、役員報酬、従業員に支払う給料や地代、そのほかの経費を合算すると月の固定費は、どんなにけずっても数十万円~数百万円には、なってしまいます。
創業が遅れれば、その間は、売上はたたない上に、固定費はすべて無駄になります。
1ヶ月、創業が遅れれば、数十~数百万円の売上を失い、かつ、数十~数百万円の固定費は、無駄になってしまうのです。
経営相談員の指導について
日本標準産業分類によれば、産業の種類は、1,500もあります。
経営相談員といっても、生身の人間ですから、実際に経験がある業種は、限られています。
相談をうける業種に関しては、未経験であることが多いのです。
経験が十分にある創業者のなかには、事業のことをなかなか理解してもらえない苛立ちを感じられるかたも少なくないようです。
経営相談員への相談は、多くの起業家にとって時間の浪費と感じられることでしょう。
銀行窓口への対処の仕方
制度融資の窓口は、多くの場合、近くの信用金庫や地方銀行となります。
窓口では、市町村区の創業融資を薦めてくることが少なくありません。
銀行員も創業融資については詳しくない方が多いのです。
表面的な条件だけを考えて、創業時期が遅れることによる損失を理解していないのです。
創業時期が遅れることによる損失は、小さくはありません。サラリーマンと違って収入は、創業しなければ一円もはいってきません。
制度融資を利用するのであれば、『税理士から薦められたので』とか理由をつけて、強引に押し切り、東京都の創業融資制度を強く希望してください。
もちろん、その時点で税理士と契約をしている必要は全くありません。
もっともらしい口実を言えればそれでよいのです。
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