株式評価の方法

この記事の著者
代表者

工藤聡生 
銀行、国際会計事務所勤務を経て開業。資金調達、事業計画による業績向上を支援している。早稲田大学政経出身、公認会計士・税理士。

株価算定書とは?

株式を評価するときは、「株価算定書」を作成し、評価プロセス、前提、評価結果を明らかにします。株価算定書とは、後述するさまざまの方法を使って、会社の価値を計算し、最終的に一株当たりの株式評価額を算定する計算書です。
資金調達、事業承継、企業再編、M&Aといった会社が生存し続けるための重要局面で必要となる書類です。

資金調達をするときの株価算定書の必要性

投資家にとって株価算定書は大切な資料です。投資の意思決定が適正であることを役員会や自身の株主から説明を求められることがあるからです。不適切な取引であったことを自身の株主やマネジメントから将来的に糾弾されないためには、ぜひとも用意しておくべき書類です。投資意思決定における、基本的なコンプライアンスのひとつと考えられます。また、適正な株価算定書に基づいて株式発行すれば、税務上のリスクを回避できます。
調達する側にとっても株価算定書は重要です。株式公開をする際には、株式評価の算定根拠は、厳しく審査されますし、投資家に広く頒布する開示書類でも算定根拠等は記載しなければなりません。

同族株主間で株式を売買するときの株価算定書の必要性

贈与税課税や受贈益課税を避けるためには、税務上適正な価格で取引をする必要があります。同族株主間で未公開株式を売買する場合には、税務上は、原則的には、類似業種比準方式や純資産価額方式をもとに評価することとなります。

役員、従業員、持株会に株式を発行したり、あるいは移動したりする時の必要性

認定課税を避けるためには、税務上、適正な株価である必要があります。また、会社法上も有利な価額での発行には株主総会の特別決議が必要となるので、適正に株式を評価して、発行価格とする必要があります。また、株式公開を目指す会社であれば、審査および開示書類用に、算定根拠を明らかにしておく必要があります。

企業再編時の株価算定書の必要性

企業再編時の合併比率、分割比率、交換比率は、適正に算定する必要があります。さもなければ、税務上、IPO上、会社法上のリスクにさらされることになります。

M&A時の株価算定書の必要性

客観的な第三者によって適正に株式が評価されることにより、売り手・買い手の合意が形成されやすくなります。M&Aはそのほとんどが価格のおりあいがつかなくて流れるのですが、株価算定書は、両者の合意形成のための話し合いを促進してくれる効果があります。両者の相違点を、売上成長性、在庫管理、設備投資額、資本コスト、残存価値の考え方といった個別の論点に落とし込むことにより、客観的かつ建設的に論議し、お互いが感情的になることを回避することができます。また、株価算定書により、売り手・買い手ともに、適正な取引であることを、自身の株主や役員会に説明できますし、税務上のリスクを回避することができます。

事業承継のために「固定合意」の制度を利用した時の必要性

自社株式の遺留分に係る争いを回避するひとつの方法として、経営承継円滑化法の固定合意の制度があります。この制度を利用すれば、遺留分計算時の自社株式の評価を固定することができます。ただ、固定合意される評価額は、その時における相当な価額でなければならず、弁護士・公認会計士・税理士等の証明が必要とされます。

株価算定方法

企業の株式評価の方法には、インカムアプローチ、マーケットアプローチ、コストアプローチの三つのアプローチがあります。それぞれのアプローチは、さらに、いくつかの代表的な評価方法に分かれます。
株式評価の目的や企業実態に応じて、最も適合する評価方法を選択する必要があります。適合しない評価方法を選択した場合には、税務上、株式公開審査上のリスクが発生します。資金調達、同族株主間取引、企業再編、M&Aといった株式評価目的によって使うべき算定方法は大きく異なってきますし、また、会社の成長段階、規模によっても、使うべき方法は全く異なります。
場合によっては、いくつかの評価方法を併用しなければならない場合もあります。

インカムアプローチとは、その会社が将来、創り出すであろう経済的利益から企業の株式を評価する方法です。DCF法、配当還元法、収益還元法などの評価方法があります。

コストアプローチとは、すべての資産と負債を評価して、その差額である純資産を株式評価額とする方法です。(純資産÷発行済株式数)が一株当り株価となる、わかりやすい評価方法です。コストアプローチは、さらに大きくわけて簿価純資産法と時価純資産法に分類されます。株式評価額を算定する際には、通常は時価純資産法によります。事業上、資産が重要な価値をもつ会社の評価に向いていますが、営業権や成長性を評価することができず、清算を前提とした評価方法ともいわれています。そのため、単独で使われることはすくなく、インカムアプローチと併用されることが多い評価方法です。
欠点を補うために営業権を算出する方法もありますが、インカムアプローチと実質的に同じアプローチとなっています。
純資産法は、税法においても受け入れられている手法ですので、税務対策を意識するときにも、よく利用されます。

マーケットアプローチは、類似した株式公開会社の時価を基準として、対象会社と比較分析して評価をする方法です。類似業種比準法、類似会社比準法、PER、PBR、EBITDA倍率、売上高倍率といった方法があります。共通して、比較する会社の利益、純資産、配当、EBITDA、売上高といった指標と株価との比率を求め、対象会社に当てはめて株式を評価します。比較するのに適切な会社を見つけられれば、他の会社と客観的に比較して会社の公正価値を導き出せる点が大きなメリットです。
類似会社比準方式は、税法においても採用されており、税を意識する場合にはよく利用されます。
PER法は、多くの人が目にしたことのある指標でしょう。株価収益率といわれ、(株価÷1株当り利益)で求められます。上場株式の投資判断で広く使われています。

DCF法について

DCF法は、インカムアプローチの一種です。
その企業が将来、生み出すキャッシュフローにも基づいてその企業を評価しようという方法です。
M&Aやベンチャーキャピタル(投資家)からの資金調達、さらには、一般の株式売買の際にもよく利用される方法です。
事業価値に基づき、企業の本源的な価値を測定できることから、幅広く企業の株式評価において利用されています。
計算過程が明快なので、株価の交渉の際にも有用な情報を提供してくれる点も大きなメリットです。

【DCF法の具体的な算定方法】

  1. まずは、過去の業績を客観的に分析します。この分析に基づき、実現可能な事業計画を作成し、事業期間(5年から10年)におけるフリーキャッシュフローを予測します。
  2. フリーキャッシュフローとは、(税引後営業利益+非現金支出費用-増加運転資金-設備投資額)で計算される事業価値を表す指標です。
  3. CAPM理論などに基づき、資本コストを計算し、フリーキャッシュフローを現在価値へ割り引きます。
  4. 事業期間終了後の会社の残存価値を計算して、現在価値へ割り引きます。残存価値の評価の際は、その後の成長性を考慮することもあれば、清算価値により低く評価することもあります。この残存価値の評価が、企業の株式評価の大半を占めることがあります。
  5. 事業に直接使われていない事業外資産の時価を評価します。
  6. 上記を集計して企業価値を算定します。この企業価値から有利子負債を控除して、株式評価額総額を算定します。
  7. 株主価値(株式評価額総額)を発行済株式数で除して、一株当りの株式評価額を導き出します。
  8. 未公開株式の株式評価においては、さらに、支配の度合いに応じたコントロールプレミアムやマイノリティディスカウント、株式が流通していないことによる非流動性ディスカントや、規模が小さいことによるディスカウントを考慮することがあります。

DCFは、会社の本源的な価値を算定できる、優れた算定手法ですが、事業計画の前提のおき方や、資本コストの設定の仕方により、評価額が大きくかわってしまうという欠点が指摘さています。ただ、ほかに代わる手法がないために広く使用されており、広く受け入れられています。

配当還元方式について

配当還元方式もインカムアプローチの一つです。受け取った配当金や、将来受け取る配当金の見込み額に基づいて、株式の価値を評価する方法です。少数株主は、会社に対する支配権を持たず、配当ぐらいしか経済的利益が期待できないので、この評価方法は少数株主の所有する株式の評価に適しています。
税法においても、少数株主の株式評価において採用されています。会社の成長性を考慮したゴードンモデルという変形モデルもあります。

収益還元方式について

インカムアプローチのひとつです。
将来、予想される利益を資本還元率で除して求めた値を企業の株式評価額とする算定方法です。
株価は、(一株当り予想利益÷資本還元率)で算定されます。
簡単に株価算定ができるというメリットはありますが、利益の成長性が一定であるというかなり無理のある前提に立っている点が、上記のDCF法に比べると劣っています。

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また、当事務所の公認会計士・税理士が作成する株価算定書は、税務調査、監査、証券会社の審査等において、極めて高い評価を受けてきました。

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