粉飾決算の見抜かれ方-架空在庫編

この記事の著者
代表者

工藤聡生 
銀行、国際会計事務所勤務を経て開業。資金調達、事業計画による業績向上を支援している。早稲田大学政経出身、公認会計士・税理士。

経営者は、決算書が赤字になるのを恐れています。
赤字になると銀行がお金を貸してくれなくなると思い込んでいるからです。

一時的な赤字であれば、経営計画をつくり、赤字原因を取り除く改善策を明確に示せば、銀行から運転資金を引き揚げられることはありません。
しかし、この正攻法でゆかずに、安易な粉飾に頼ろうとする経営者は少なくありません。
心情は理解できますが、これは悪手です。

粉飾において、他記事でご紹介した架空売上と並んでよく使われる方法が、架空在庫です。
架空在庫を計上するとその分だけ売上原価が減り、利益が増えます。
銀行は、架空在庫による粉飾には、目を光らせています。
架空売掛金とならんで、典型的な粉飾手法だからです。

銀行は、まず、社長との雑談のなかから、在庫残高の妥当性を検証します。
『売上の何か月分ぐらいの在庫を抱えているのですか?』
うっかり言ってしまった返答と、決算書の在庫残高が矛盾していれば粉飾を疑われます。

そのほかに、銀行は、決算書をさまざまな角度から分析しています。
銀行は、在庫の回転期間を算出しています。
回転期間とは、在庫残高を月次の平均売上原価で除した数値であり、在庫の滞留期間を示します。
仮に在庫の回転期間が2ヶ月であれば、仕入から販売に要する期間は、2ヶ月であることを意味します。
銀行は、回転期間を時系列に分析します。
在庫の回転期間は、製品構成が変わらない限り、変化することはありません。
回転期間が大きく増加すれば銀行は粉飾を疑ってきます。
かりに年商が120で在庫が10の会社があるとします。
原価率が50%であれば、年間の売上原価は、60であり、1ヶ月の平均売上原価は、5です。
したがって、在庫の回転期間は、2ヶ月となります。

かりに、売上が120から60に落ちたとしましょう。比例して在庫も、10から5へ落ちるはずです。
在庫の回転期間は、2ヶ月で不変のはずだからです。
ここで、粉飾をして架空在庫を5だけ計上するとしましょう。
在庫残高は、以前と同じ10のままですが、回転期間は、倍の4ヶ月となってしまいます。
不自然ですね。
製品構成が大きく変わらない限り、在庫の回転期間が大きく変化することはありません。
納得のいく説明がされないかぎり、銀行は、粉飾を疑ってきます。

また、銀行は、在庫の回転期間を業界平均とも比べてきます。
業界平均が2ヶ月なのに、3ヶ月分の在庫があり、業界平均より1ヶ月分も大きければ、銀行は怪しいなと思います。

粉飾決算から抜け出す方法

いちど始めた粉飾は、そう簡単には、辞められません。
帳簿をちょっと操作するだけで銀行からお金をひっぱれるのですから、経営改善よりもはるかに楽だからです。
ただ、会社の実際の財務体力は、どんどんと弱っていき、いつかは、会社は、袋小路に追い詰められます。

銀行も、上記の方法により、粉飾に気づき、お金を貸してくれなくなります。
粉飾に頼る会社は、厳しい選択を避ける傾向にあり、経営改善を怠っている場合が多いので、会社はぼろぼろです。
どうしたらよいのでしょうか?

とことん追い詰められると逆に銀行に正直に話そうとする社長がたまにいますが、粉飾をさんざんにやったあとに、いまさら銀行に正直に相談しても助けてはくれません。
そんなことをしても、金融支援を打ち切られてしまうだけです。
粉飾から抜け出すには、経営計画に基づいて、本格的な経営改善をするしかありません。
粉飾額は、少しずつ、経営計画に沿って原価処理して減らしていきます。

経営計画に基づいて解消策を実施すれば、節税もはかれますので、急速に会社の財務を改善することが、可能です。

general

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