銀行員は決算書のここを見る

銀行の融資は、稟議書を回して審査されます。 

たくさんの人たちの決裁が必要とされています。 

担当の銀行員、担当上司、融資係、融資係の管理者、次長、支店長が、ハンコを押して初めて融資はおります。 

大きな金額となるとさらに本店決裁が必要となります。 

この稟議書決裁なしに、融資は実行されません。 

担当の銀行員が、すべての役職がハンコを押してくれるような、良い稟議書を書いてくれないと、永遠にお金は貸してもらえません。 

担当の銀行員に、稟議書を書いてもらうためには、まずは、その銀行員に『貸しても大丈夫』とおもってもらわなければなりません。 

 

では、どうやって担当の銀行員は、『貸しても大丈夫かどうか』を判断するのでしょうか? 

80%は、あなたの会社の決算書に基づいて冷徹に判断しています。 

彼が重視しているのは、あくまで数字です。 

それ以外は、ほとんど気に留めていません。 

社長の自慢話は、聞き流しています。 

 

ですので、銀行員に決算書をぽんとわたすだけではだめです。 

相手が決算書を間違って解釈しないように、銀行員が持ちそうな懸念を先取りして、言い訳をまくしたてておく必要があります。 

言い訳の仕方によっては、銀行員の持つ印象は格段に改善します。 

 

以下に、銀行員が見る決算書のポイントと、社長の説明の仕方について説明します。 

 

銀行員は、まず、損益計算書の利益を見ます 

最初に見るのは、黒字か、赤字かです。 

ただ、損益計算書には、さまざまな利益が表示されています。 

売上総利益、営業利益、経常利益、税引き前利益、税引き後利益と5種類あります。 

売上総利益は、売上から直接の原価を控除した利益です。 

営業や管理に要する、給料、地代、販促費は、まだ差し引かれていません。 

ですので、ほとんどの会社でまず間違いなく黒字です。 

この売上総利益がマイナスだと、会社全体として平均的に原価割れ販売をしていることになります。 

この売上総利益が赤字なら銀行にはまったく相手にされませんし、そもそも会社が長くはもちません。 

 

その下に表示されている利益が、営業利益です。 

売上総利益から、営業や管理に要する給料、地代、販促費等をひいた利益です。 

営業利益は、本業がもたらす利益を表しています。 

この利益が黒字であるなら、本業は健全と言えます。 

銀行は、営業利益が黒字であることを期待しています

 

営業利益以上に、銀行員が注目するのが、経常利益です。 

支払い利息等の財務費用も控除した利益です。 

この利益が黒字なら、企業は、営業活動、財務活動、投資活動にかかわるあらゆる費用を控除しても、経常的に利益が残るということです。 

経常利益がプラスなら、銀行からしても、利息をはらってもまだ利益がでるので安心です

経常利益がプラスなら、高く評価してくれます。 

 

問題は、営業利益や経常利益が、赤字のときです。 

銀行員は当然に眉をひそめます。 

悪い印象を持ちます。 

こういったときは、その赤字が一過性であり、翌期には、黒字になるシナリオを必ず説明してください。 

『顧客の心はがっちりと掴んでおり、売上は大きくはへこんではいない。人件費や、販促費等々に一時的に費用はかかったが、来期は問題なく、黒字に戻る。』 

たとえば、こういった趣旨の説明を事前に用意して、聞かれなくともこちらから積極的に説明してください。 

 

税引き前利益は、固定資産売却損益や投資有価証券売却損益等の、非経常的な損益を考慮した利益です。 

さらに税金を引くと、税引き後利益になります。 

税引き前利益や税引き後利益もできるなら、黒字であることが望ましいとされています。 

しかし、経常利益がプラスの会社が、固定資産売却損で一時的に赤字になっても、銀行員の評価は、そんなには傷つきません 

大抵の場合は、経常利益さえプラスなら、利益の出る健全な会社と見てくれます。 

ただ、特別損失が毎期発生して、いつも経常利益を100%くってしまっている状態だと本当にその特別損失は、臨時的なものなのかと危惧されてしまいます。

 

銀行員は、過去の利益も見ます

銀行は、黒字かどうかを単年度だけで判断するわけではありません。

歴史的な業績の推移にも着眼します。

経常利益が3年連続で相当額の黒字なら、銀行の評価はかなり高くなります。

今は黒字でも、それ以前が赤字なら評価はちょっと低くなります。

銀行員は、また、赤字に転落するのではないかと不安を感じます。 

ですので、その場合は、『新戦略が功を奏して黒字化した。この黒字状態は、揺るがない。』という旨を滔々と説明してください。 

 

逆にずっと黒字だったが、赤字に転落した場合には、赤字が一時的な要因であること強調してください。 

『顧客は、がっちりと握っており、一時的なコスト増があったので、一時的に赤字になっただけだ。』という趣旨でうまく説明できれば、評価は大きくは下がりません。

 

次に銀行員が見るのは、純資産です

純資産とは、貸借対照表の資産から負債を引いた残りです。 

債務超過や累積損失となっていないかをチェックします。 

純資産がマイナス、すなわち債務が資産を上回る債務超過状態だと銀行員は、会社が破綻するかもしれないという懸念を抱きます。 

出資した資本金が食いつぶされてしまっているからです。 

債務超過だと経営改善計画を提示しないと銀行は、お金を貸してくれません 

きちっとした再生プランでアピールする必要があります。 

 

純資産がプラスでも、累積損失が計上されていれば、債務超過のときほどではありませんが、評価は低くなります。 

累計損失が計上されているということは、創業から現在にいたるまでの利益の合計がマイナスだからです。 

累積損失であるなら、『今後は、黒字は確実に長期的に維持できるので、累積損失は、早晩に解消する。』という旨を根拠立てて説明してください。


銀行員は、在庫や売掛金の残高も注視します

銀行員は、在庫や売掛金の残高にも注目します。 

なぜでしょうかか? 

黒字に見せかけるために、在庫や売掛金の残高を架空計上する会社が、少なくないからです。 

在庫や売掛金を架空計上すると、その分だけ、帳簿上は、利益が大きくなります。 

粉飾決算のほとんどは、在庫や売掛金の架空計上によるものです。 

上場企業ともなると、もうちょっと手の込んだ粉飾技法を使います。 

資本関係を遮断した別会社を使ったりします。 

架空在庫や架空売掛金は、見つかりやすいのですが、手っ取り早くできる粉飾技法です。 

 

銀行は、売上が横ばいなのに、在庫や売掛金が増加していると、粉飾をして黒字に見せかけているのではないかと疑ってきます。 

こちらが、なにも説明をしなければ、勝手に粉飾を疑って、貸してくれません。 

こちらから積極的に弁明しておかないとだめです。 

在庫が積みあがった理由や、売掛金が増加した正当な理由を説明してください。 

来期の販売にそなえて在庫を積み上げたとか、値上げした分だけ回収サイトを伸ばしたとか、適切な説明を積極的にしてください。 

在庫は実在しており、売掛金は回収可能であることを説明できるようにしておくということです。

 

銀行員は、借入金の残高は必ずチェックします

月商の3ヶ月分までが、適正な借入残高であるとよく言われています。 

6ケ月を超えてくると銀行は、警戒します。 

ただ、これは、あくまで、一般的な目安です。 

製造業なら設備投資が必要ですので、もっとたくさん借入をしている健全な会社は、いくらでもあります。 

卸売業であれば、月商3ヶ月分の借入残高でも、危険水域にあると思われることもあります。 

 

借入金残高が大きい会社がさらに借入をしたい場合には、資金繰り計画表等を作成して、銀行員を安心させるのが一番です。 

新規借入が、赤字補てんではなく、運転資金や設備にちゃんと投資され、返済財源も目処がたっていることを、資金繰り計画表を準備して、丹念に説明する必要があります。 

資金使途と返済財源の明示をするのです

これは、資金調達における基本です

過剰債務の会社は、決算書をぽんとわたして、ろくに説明をしなければ、稟議書は書いてもらえません。 

審査の土俵にも乗せてもらえないのです。 


決算書がぼろぼろなら経営計画書をつくるしかありません

銀行は、金融庁から事業性評価を重視するように求められています。

事業性評価とは、簡単にいうと、銀行は、数字だけで割り切った定量評価をせずに、企業の実態をよく見て、融資や本業支援を行いなさいということです。

具体的には、決算書や担保・保証だけに頼らずに、企業のビジョンを理解し、SWOT分析を実施して、企業の経営実態を深く理解することにより、事業性評価を行い、その評価に基づき、格付けを行って、融資可能性を判断するということです。

決算数値がわるくとも企業に将来性があり、経営者の資質がたかければ融資支援をしなさいというのが金融庁の考え方です。

言い換えると、銀行は、融資判断の際に、定性評価の部分のウエイトを高めざるを得なくなったのです。

ですので、決算書がぼろぼろで担保もなく、定量評価が低くとも、会社に将来性があれば、投資資金を貸し付けてもらえる可能性は前よりも高くなりました。

それだけなく、さらに銀行は、事業性評価によって得た情報に基づき、販路拡大やビジネスマッチングなどの本業支援を行うことを、金融庁から求められています。

金融庁は、銀行にとっては絶対的な存在なので、この金融庁の方針転換は、銀行の融資姿勢に対して大きな影響を与えています。

 

銀行による事業性評価を高めるためには、知ってもらう努力が大切です。

銀行マンは一人あたり数十社の担当を持ち、多忙です。

また、企業の事業を見極められる人は多くはありません。

長くにわたって定量データだけに頼って企業を評価してきたので、事業の将来性をめききする能力も低くなってしまったのです。

担当者が、ヒアリングはしてくるでしょうが、多くの場合、経営者の思いはなかなか伝わらないでしょう。

ですので、待ちの姿勢ではだめです。

こちらから経営計画を差し出して、会社の将来性、成長力をこちら側が証明する努力をしないと、高く評価はしてくれません。

 

ただ、銀行もばかではありませんので、いい加減な経営計画をつくっても、評価はしてくれません。

リアルな経営計画を作り提出することが大切です。

過去の経営実績を冷静に分析し、企業をとりまく外部環境の機会と脅威と、経営の強みと弱みを客観的に見つめる必要があります。

この分析に基づき、明確なビジョンを打ち立て、そのビジョンを達成するために、無駄をそぎ落とし、強みに経営資源を集中する、『肉を切らせて骨をたつ』式の、真摯なシナリオをつくれば、理解は得やすいでしょう。

 

面倒くさいかもしれませんが、事業性評価に対する対応はおろそかにすべきではありません。

融資だけでなく、本業支援も期待できます。

銀行のもっている情報やネットワークは、まだまだとても魅力的です。