経営者のなかには、決算書に無関心のかたが少なくありません。

無関心の理由はさまざまです。

見てもよくわからないと苦手意識をもっている人もいれば、黒字で税金が少なければそれでいいと考えている人もいます。

 

本決算にほとんど関心を持たないかたは、月次決算になるとさらに関心がしぼみます。

月次決算なんかいらないと思っておられるかたもいます。

 

売上ばかり気にして、月次決算が示す経営実態に関心を払わない社長はたくさんいます。

ただ、そういう社長の会社はだいたい赤字です。

 

経営は想定どおりにはいきません。

競争の激化により、実態は変化し、想定は裏切られます。

経費は想定よりも高く、粗利は想定よりも低くなります。

利益を確保したければ、変わり続ける経営実態を把握し、売上目標を設定しなおす必要があります。

間違った想定のままで経営をしていても、利益は確保できません。

1,000万円の売上がなければ会社が黒字にならないのに、社長が、『売上が900万円でも大丈夫だ』と思っていたら、会社は絶対に儲かりません。

 

月次決算は、想定の誤りを正してくれます。

常に変化する経営実態を明らかにし、正しい売上目標を教えてくれるのです。

 

月次決算が教えてくれるのは、売上目標だけではありません。

想定は、資金繰りでも裏切られます。

在庫は思ったよりも膨らみ、売掛金の回収は想定よりも遅れるといったことは日常茶飯事です。

想定よりも資金は減ってしまうのです。

競争の激化により、運転資金に投入される資金量は、絶え間なく変化し、想定を裏切ります。

月次決算により、変化する運転資金の流れをつかみ、銀行との融資折衝をはやめはやめに実行しなければなりません。

 

『想定どおり』という言葉で一世を風靡した経営者がいます。

かれは粉飾決算で実刑判決をうけて服役しました。

実刑判決は、想定どおりだったのでしょうか?

 

そもそも人の認識力や想像力なんてたかが知れています。

諸行無常の経営環境で自分の想定がいつまでも正しいだろうと奢った考えをする経営者は、長くはもちません。

 

経営者は、生き残るためには、正しい目標を設定しなければなりません。

そのためには実態の変化に合わせて目標も変えていかなければなりません。

月次決算は、諸行無常の経営環境で、変化し続ける実態を手遅れになる前に教えてくれるのです。

会社の利益は、次の算式で計算されます。

 

売上-変動費=限界利益

限界利益-固定費=利益

 

変動費は、売上に比例して増減するコストで、材料費、商品原価、販売手数料などが典型例です。

固定費は、売上に無関係に一定のコストです。具体例は、人件費、減価償却費、地代などです。

利益は、売上から変動費と固定費を差し引いた残りです。

損益計算書上は、だいたい、売上、変動費の勘定科目、固定費の勘定科目の順番に並んでいます。

経営の目標は、この利益をプラスにすることです。

 

損益計算書を見るときに、上から見て解釈するかたがいますが、それはお薦めできません。

できれば、損益計算書は、下から見て解釈してください。

とくに赤字のときは下からみていただきたいのです。

 

損益計算書を上から見ると、利益がマイナスとなってしまったときは、最期に差し引かれる固定費を削ろうという発想に陥りがちです。

どんな会社でも、固定費で目立つのは、人件費です。

業種を問わず、固定費の相当割合を占めています。

人減らしや減給で利益を確保しようという話になってしまいます。

リストラは、社員の忠誠心を傷つけ、しいては、会社をよくしようという意欲を著しく傷つけるのでお薦めはしません。

それに日本では、解雇の要件は厳格に解釈されており、実行するのはとても困難です。

大企業ではリストラ部屋を設けて巧妙かつ残忍に中高年のくびをきっているようですが、中小企業でそんなことをしたら、社員はやる気をなくし、やめてほしくない人までやめてしまうでしょう。

そもそも、中小企業には、無断な人材も経費も少ないので、固定費削減の余地は大きくはありません。

 

むしろ、損益計算書は下から見るようにしてください。

まずは、固定費がどれぐらい発生しているのかを把握します。

次にその固定費と等しい限界利益を生み出すだけの売上はいくらなのかを計算するようにしてください。

 

目標売上高=固定費÷限界利益率

※限界利益率=限界利益÷売上です。限界利益という概念がわかりづらいかたは、粗利益率と読み替えていただいても結構です。

 

例えば、限界利益率(粗利益率)が25%の製品やサービスを売っている会社があるとします。

毎月の固定費が100万円であれば、

目標売上高=100万円÷25%=400万円

となります。

 

中小企業は、この目標売上高を実現するべく営業に全力を注ぐべきです。

 

売上を増やすためには、さまざまな知恵を絞って、新たな製品やサービスを見つける努力をしなければなりません。

新製品だけではありません。新たな販売方法や生産方法、業務フローが会社を救うかもしれません。

社長ひとりの知力には限界がありますので、ほかの人の意見を聞くようにしてください。

ライバル企業を謙虚に観察したり、顧客から話を聞いたり、社員からアイディアを募ったりするべきでしょう。

高慢な態度をとらずに、周囲の声に謙虚に耳を傾け、アイディアを探索してください。

 

税理士にしては変わったことを言うというかもしれませんが、中小企業が経費を削るには限界があります。

黒字化は、売上拡大で実現するべきなのです。

事業計画書は、資金調達を実現する魔法の杖と言われています。

銀行融資折衝では、説得力のある事業計画書は、確かに威力を発揮します。

 

融資の可否を決裁するのは、いつも接している渉外の営業マンではなく、融資係、支店長、本部の審査部です。

直接に会うことはできないので、社長の言葉は届きません。

事業計画書という文書を使わないと、伝えたい情報が伝わらず、会社の実力を訴求することができないのです。

 

ただ、事業計画書を作成しようとして手引き本を探しても、なかなか良い教科書は見つかりません。

わたしも数十冊は目を通してきましたが、アカデミックすぎたり、資金調達という観点からは、ピントがずれていたりする本ばかりです。

目的は、資金調達ですので、銀行に強くアピールする事業計画書を手間をかけずに作りたいというのが中小企業の本音ですが、その要望にぴたりと会うような良書は意外とないのです。

 

今回は、わたしの経験から、銀行融資を調達するために手軽で効果のある方法を紹介します。

損益計画に追加資料をつけて肉付けして、銀行に提出するという方法です。

難しい教科書を何冊も読んで、フルパッケージの事業計画書を作る必要はありません。

 

損益計画とは、翌事業年度の予想損益計算書のことです。

損益計画の予想利益が大きいほど資金調達は有利となります。

損益計画を作るときは、直前期の損益計算書を基にして、売上増加、原価率改善、経費削減の三つの経営対策を組み合わせて、より高い利益水準を目指しましょう。

損益計画に以下にあげた8個の資料を添付するだけでも、簡易版ではありますが、説得力のある事業計画書になります。

8個すべての資料を添付するのが難しければ、できる資料だけでも添付してください。

それだけでも、資金調達は、かなり有利になります。

  1.  経営理念を文書化する。社会貢献の意思を面倒くさがらずにアピールしてください。社長が良いひとだからといって銀行は、お金は貸してはくれませんが、くそまじめな人という印象を与えることができれば銀行折衝は、有利になります。まじめだから簡単には借金を踏み倒さないだろうと思わせることはできるのです。
  2. ターゲットと会社の強みを文書化する。どんな強みをつかってどういったターゲットを狙いうちにしているのかをわかりやすく説明してください。強みとは技術力や販売力のことです。なんとなく場当たり的に経営をしているのではなく、戦略的な優位性があることをアピールするための資料です。
  3. 狙いとするターゲット市場が伸びていることをグラフなどの視覚的な資料で示してください。世の中にはたくさんの業種があります。日本標準産業分類でも、約1,500の種類あります。1つの業種には、また、さまざまな顧客セグメントがあります。銀行マンは、基本的には個々の顧客セグメントの市場動向はわかりません。こちらから積極的に資料を提示すれば、案外と信じてもらえます。会社のターゲットとしている市場が伸びていると評価してもらえれば、会社の格付け評価は高まります。
  4. 顧客リストを添付する。顧客リストが長ければ長いほど、売上を安定的に確保できることをアピールできます。
  5. 販促方法を具体的に示す。ちらし、DM、ホームページの画面コピー、セミナー案内、フリーペーパー等を提示する。視覚的な資料で販売力があることを訴求するのです。視覚的な情報は、文章でだらだらと販売戦略を記述するよりも、はるかに強い説得力を持っています。
  6. 製品やサービスについて視覚的な情報を提示して、具体的なイメージを持ってもらいましょう。視覚情報とは、例えば、製品の写真、お店の完成予想図、ITビジネスにおける取引フロー図などです。視覚情報を通じて製品やサービスへの理解は深まります。製品やサービスへの理解が深まるほど、会社への評価は改善します。
  7. 価格リストを添付して、その価格が競合よりも安いことをアピールしてください。ライバルよりも、安い価格でも利益を確保できる企業体質にあることを示せば、損益計画への信頼性は高まります。
  8. 資金繰り表を作成して、営業キャッシュフローは最終的にはプラスになることをアピールする。営業キャッシュフローが長期的にはプラスであることを納得させることができれば、運転資金はもちろん、設備資金の調達も決して難しいことではありません。