平成27年度税制改正の概要(平成27年1月末現在)

27年度税制改正大綱の主な改正項目について、以下に解説いたします。

今年の税制改正で目立っているのは、法人税率の引き下げとそれにともなう、財源確保のための改正です。

財源確保のために、欠損金の繰越、受取配当金の益金不算入、外形標準課税について納税者不利の改正が行われます。

世代間の所得移転に関する改正も目立っています。

『住宅取得等資金贈与』、『結婚・子育て資金贈与』、『ジュニアNISA』などについての改正は、世代間の所得移転により経済を成長させようという狙いを持っています。

 

1.法人税率の引下げ

成長志向に重点を置いた法人税改革という旗印の下、法人税率の引下げが行われます。

納税者有利の改正です。

法人税法の本則税率が23.9%(現行25.5%)に引き下げられます。

中小法人、公益法人等及び協同組合等の軽減税率の特例(所得の金額のうち年800万円以下の部分に対する税率を、法人税法の19%から15%とする制度)の適用期限は、2年延長されます。

中小企業は、所得が800万円以下であれば、改正前と同率の軽減税率が適用されますので引き下げの影響はあまりないでしょう。

 

2.欠損金の繰越控除等の見直し

法人税率引下げに対応する課税ベースの見直しの一環で、欠損金の繰越控除等の見直しが行われます。

大法人の控除限度が、現行の80%から、27年度に所得の65%、29年度に所得の50%へ引き下げられます。

繰越期間は、逆に9年から10年へ延長されます。

中小法人等(法法57⑪)は、現行の控除限度額(所得の金額等)が維持されますので、控除制限は受けません。

大法人にとっては不利ですが、中小企業にとっては、逆に繰越期間が延長されるので有利となります。

 

3.受取配当等益金不算入制度の改正

法人税率引下げに対応する課税ベースの見直しの一環で、受取配当等益金不算入制度の見直しが行われます。

現行は、25%以上保有している場合は、100%不算入となりますが、この敷居が3分の1超に引き上げられます。

さらに、持ち分比率5%以下の場合は、20%しか益金不算入となりません。

原則として、納税者不利の改正です。

ただし、3分の1以下の場合には、負債利子が控除されません。その分だけ益金不算入額が大きくなるので多少は緩和されています。

 

4.外形標準課税の拡大

法人税率引下げに対応する課税ベースの見直しの一環で、法人事業税における外形標準課税の拡大が行われます。

所得割の税率が引き下げられる一方で、『外形』である付加価値割や資本割の税率が引き上げられます。

少なくとも赤字企業にとっては増税となりますので、納税者不利の改正です。

ただし、中小企業に外形標準課税が課される改正は、今回は行われませんでした。

一安心というところです。

 

5.研究開発税制の改正

控除限度額の総枠は、法人税額の30%を維持しつつ、オープンイノベーションを推進するという視点から、特別試験研究費については、控除限度を5%別枠化します。

特別試験研究費とは、国、大学などとの共同研究・委託研究にかかわる費用です。

また、限度超過額の繰越制度は廃止となります。

原則として、納税者不利の改正です。

 

6.所得拡大促進税制の改正

給与等の支給額の増加要件が緩和されます。

賃上げを誘導する狙いです。

現行では、給与等支給額の増加要件は、平成27年は3%、平成28年は5%、平成29年は5%となっています。

これを、大企業の場合は、3%、4%、5%へ要件が緩和されます。

28年度の増加要件が5%から4%へ引き下げられます。

中小法人については、さらに、平成27~29年度の増加要件を一定値の3%とし、賃上げへのインセンティブを高めます。

全体として給与等支給額の増加要件が1~2%下げられますので、納税者有利の改正です。

 

7.住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置等の見直し

足元の住宅市場を活性化させるために、27年の住宅資金贈与の非課税枠を拡大するものです。

一般住宅の場合は、現行の500万円から1,000万円へ拡大します。

若年層への資産の早期移転を通じて、住宅需要を刺激する狙いです。

それとともに、消費税率の10%への引上げによる駆け込み需要の反動を緩和する措置も織り込まれています。

消費税率10%が適用される住宅購入者のみを対象とした非課税枠(10%適用枠)が創設されます。

その枠を合わせると、非課税限度額は、最大3,000万円となります。

納税者有利の改正です。

 

8.結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の創設

将来の経済的不安が若年層に結婚・出産を躊躇させる大きな要因の一つとなっていることを踏まえ、子や孫の結婚・出産・育児を後押しするため、これらに要する資金の一括贈与に係る非課税措置が創設されます。

贈与者は、金融機関に子、孫名義の口座を開設して、結婚・子育て資金を一括拠出します。

非課税限度額は、子や孫ごとに1,000万円です。

50歳に達するまでに、結婚、子育てに使うことが条件です。

使い残しは、贈与税課税がされます。

金融機関が領収書等をチェックして、結婚、子育て目的の支出であることを確認します。

贈与者が死亡した場合は、その時点の残高を相続財産に加算します。

 

9.ジュニアNISAの創設とNISAの拡充

NISAにつき、ジュニアNISAが創設されるなど、前年度に引き続き利用を後押しするための改正が実現します。

大綱では極めて難しく内容が書かれていますが、高齢者世帯の金融資産を若年層に回し、長期投資をさせて証券市場を活性化させるという目的が大きいと考えられます。

ジュニアNISAの非課税の投資上限は、年間80万円ですので、非課税投資総額は、その5年分の400万円となります。

なお、一年あたり80万円、という上限がありますので、110万円以内になることを踏まえ、親・祖父母等からの資金の贈与については特段の手当てがなされなかったと考えられます。

納税者有利の改正です。

その他、従来のNISAの非課税口座に係る上限金額が、年100万円から年120万円に拡大しています。

これは、毎月10万円という定額投資に適した金額であることを勘案して要望されたものです。

 

10.事業承継税制の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置の改正

5年間の経営贈与承継期間経過後に、経営承継受贈者が後継者へ特例受贈非上場株式等を贈与した場合において、その後継者が贈与税の納税猶予制度の適用を受けるときは、その適用を受ける特例受贈非上場株式等に係る猶予税額が免除されます。

 

11.教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置の改正

特例の対象となる教育資金の使途の範囲に、通学定期券代、留学渡航費等が加えられます。

制度の趣旨からして、当然の改正でしょう。

この制度の使い勝手が向上します。

 

12.国境を越えた役務の提供に対する消費税の課税の見直し

国外事業者が、国境を越えて行う電子書籍、音楽、広告の配信等の電子商取引に消費税が課税されることになります。

簡単にいうと、グーグルのアドワード広告に消費税がかかるようになるということです。

いままでは、サービス提供者の所在地に着目して課税されていますが、サービス提供を受ける者の所在地に着目して消費税が課税されるようになります。

消費者向け取引の場合は、国外事業者が申告納税します。

事業者向け取引の場合は、リバースチャージ方式が導入されます。

リバースチャージ方式とは、仕入れた国内事業者が申告納税をする仕組みです。

消費者向けの場合は、申告する国外事業者が日本の税務署に登録されていないと仕入れ税額控除はできません。

平成27年10月1日から施行されます。

 

13.出国税の創設

巨額の含み益を有する株式を保有したまま、シンガポールや香港などのキャピタルゲイン非課税国に出国すると、課税逃れを行うことが可能です。

租税条約上、売却した時点で居住している国に課税権があるからです。

これを回避するために、一定の高額資産家を対象に、未実現のキャピタルゲインに対して特例的に課税する仕組みが創設されます。

対象者は、有価証券等の評価額が1億円以上であり、かつ、出国直近10年内において5年を超えて居住者であった者とされます。

納税猶予の特例も設けられましたが、納税者不利の改正です。

 

14.ふるさと納税の改正

地方創生推進のため、個人住民税の特例控除額の上限が、個人住民税所得割の10%から20%へ引き上げが行われます。

地方からの要請を受け入れた改正です。

また、給与所得者が、確定申告をせずに簡素な手続でふるさと納税を行える「ふるさと納税ワンストップ特例制度」が創設されます。

納税者有利の改正です。

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