親族外事業承継を選択肢とせざるを得ない理由
会社は、子供が継いでくれなければ、従業員に継いでもらうか、外部に売却しなければなりません。
社長は、通常、会社の借入金に個人保証をしています。社長がまだ元気なうちに、会社の借入金も含めて、事業全体の承継を完了させないと、大変なことになってしまうことがあります。
社長の老齢化とともに会社の業績は、ほぼ例外なく悪化し始めます。
会社の借金が膨らみ、最後は倒産してしまうケースもあります。
そうなると、社長は、個人保証をしているので、個人資産を失い、破産に追い込まれることもあります。
社長は、老いて判断力を失う前に、借入金を含めて事業全体をだれかに承継させなければなりません。
従業員への事業譲渡の難しさ
買い手の候補に最初に挙がるのは従業員です。
長い間、会社の業務にたずさわってきたので、事業の承継自体はスムーズに進められるからです。
ただ、従業員は資力がないことが多いので、株式の譲渡対価はとても小さな金額となってしまいがちです。
また、従業員のほとんどが、社長の個人保証を肩代わりすることに躊躇します。
また、会社をひっぱっていくだけの経営力がある従業員が社内にいることは稀です。
そのため、従業員への事業承継は、めったにうまくいきません。
教科書ではLBOのスキームがよく紹介されています。会社の将来のキャッシュフローを担保にして、従業員が、金融機関や投資ファンドから資金調達をするというスキームです。このスキームは会社の資金繰りが潤沢でないとやってくれないので、多くの中小企業オーナーにとっては、現実的な選択肢ではありません。
M&Aの形態
会社を外部へ売却するには、いくつかの形態があります。
- 株式売却 社長が保有する株式を外部へ売却する方法です。手続きがシンプルですし、売却益にかかる所得税・住民税も20%ですみます。
- 事業譲渡 買い手が欲しい事業だけを切り分けて売却する手法です。簿外負債のリスクがなくなりますので、買い手にはメリットが高いです。ただ、個々の資産、契約について移転の手続が必要となるほか、許認可は、基本的に引継げません。売却益に対する課税も、上記の株式売却のときよりも税率は高くなります。
- 会社分割後に売却 会社が不動産投資をしている場合のように、子供たちが継いでもよいと考えている事業と、継ぐ意思のない事業がある場合には、会社を分割して売りたい事業だけを切り分けて別会社にして売却します。
中小企業のM&Aの9割は、①の株式譲渡の形態です。事業譲渡は現実的にはあまり使われていません。③は、残したい事業がある場合には、すぐれた手法であり、実施されているケースが散見されます。
いくらで売れるか?
M&Aの場合には、DCF法などによって株価を算定するのが一般的ですが、中小企業の場合には、基本的には、純資産による評価となります。
ほとんどの社長は、純資産を超える企業価値が会社にはあると考えますが、評価してもらえることはほとんどありません。
中小企業の場合には、社長の手腕に頼っていることが多く、買い手は、社長が抜けたあとも、業績を維持するのは、難しいと考えます。
営業権を評価してくれても、よくて2~5年の営業利益が加算されるぐらいです。
ですので、中小企業のM&Aの場合には、高い価格はつきません。
《純資産価額による会社の評価の仕方》
- 資産は時価で評価されます。含み益分が純資産価額に加算されます。
- 含み益からは、譲渡益に対する税金分が控除されます。
- そのほか、在庫や売掛金、不動産の含み損は、純資産価額から控除されます。
- 簿外負債が計上され、純資産価額から控除されます。リースの残債や、社長の対する退職金等が、未払計上されます。
会社の売りやすくするコツ
なるべく高い価格で会社を売却するためには、財務諸表の見栄えをよくすることが大切です。
外部売却の場合には、買い手は、必ず、財務専門家を雇います。かれらの意見は、購入するかしないかの意思決定や、売却価格の決定に大きな影響を及ぼします。財務専門家からみて、印象のよい財務諸表の会社にしておく必要があります。
- 不良資産等を早めに処分し、貸借対照表をきれいにしておく。
- 不採算の事業部門や、不採算の取引先からは撤退して、収益性を高めておく。
- 余剰人員は、どっちみち、M&A後に居場所がなくなるので、できる限りの支援をして次の就職口を見つけてもらいましょう。かれらのためでもあるし、また、収益が改善され、会社が売却しやすくなりますし、株価も高くなります。
売却の時期
社長が老齢化すると会社の業績は、悪化する傾向があります。
社長がなくなられた場合には、なおさらです。急激に業績は悪化していきます。
したがって、M&Aは社長が元気なうちに計画的に実施する必要があります。
赤字が拡大し続ける会社となってしまったら、売却価格の高低を論じる以前に、買い手がつきません。
株主の整理の必要性
株主が分散しているとM&Aの妨げとなります。
買い手は、少数株主が残った状態ではまず買ってくれません。
株主代表訴訟を提起されたりして、経営を妨害されるのを恐れるからです。
また、複数の株主と買収価格の交渉をするのも面倒くさがります。
会社を外部へ売却するのであれば、あらかじめ、少数株主から株式を買い取り、社長一人に株式を集中させておくべきです。
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